施設選びで後悔しないために ケアマネが見た失敗の実例3選

介護保険制度のこと

「特養」「老健」「有料老人ホーム」……違いを調べて、パンフレットを何冊も取り寄せて、それでも施設選びに不安を感じている方は多いと思います。私はケアマネジャーとして20年、たくさんのご家族の施設探しに関わってきました。その中で感じるのは、「情報を集めなかったから失敗した」というより、パンフレットや説明会だけでは伝わらない部分でミスマッチが起きているケースが多い、ということです。

今回は、実際に見聞きしてきた中でよくあるパターンを、特定の方だとわからないよう複数のケースを組み合わせた形で3つ紹介します。「うちも同じことになるかもしれない」と不安を煽りたいわけではなく、事前に何を確認しておけば防げたのか、そこを一緒に見ていきたいと思います。

実例1:「個別対応」のはずが、気づけば見守りだけになっていたケース

何が起きたか

入所前の説明では「認知症の方にも専門スタッフが個別に対応します」という話でしたが、実際に生活が始まると、徘徊(歩き回り)への対応が少しずつ後手に回るようになっていきました。最初は職員が声をかけて一緒に歩いたり、部屋に誘導したりしていましたが、人手が足りない時間帯になると、次第に居室のドアを閉めたり、立ち上がりにくい位置に座らせたりと、身体拘束に近いような対応が増えていきました。

同時に、以前は面会のたびに細かく様子を教えてくれていた職員からの説明が、月日が経つにつれてどんどん簡単なものになり、「変わりないですよ」で終わることが増えていきました。気づけば、入所時とは顔ぶれの違うスタッフばかりになっていて、本人のことをよく知る職員がほとんどいない状態に。ご家族が違和感を覚えたのは、以前より表情が乏しくなっていたことや、居室の様子が少し変わっていたことに気づいたときでした。施設側に状況の説明を求めたことで、夜間や人手の少ない時間帯の対応の実情がようやく見えてきた、という経緯です。

なぜこのミスマッチが起きたのか

「個別対応」「専門スタッフ常駐」という言葉自体は嘘ではなくても、それが維持できるかどうかは、その施設の人員体制と職員の定着率に左右されます。認知症ケアは経験の蓄積がものを言う仕事なので、スタッフの入れ替わりが激しい施設では、どれだけ理念が良くても現場に浸透する前に人が入れ替わってしまい、結果として「安全第一」の拘束的な対応に流れやすくなります。契約前の説明会では、こうした人員体制の内情までは見えてきません。

そこから学べること

「個別対応」「専門スタッフ常駐」という言葉は、契約前の質問で具体的に確認しておく必要があります。「スタッフの平均勤続年数はどのくらいですか」「歩き回られる方には実際にはどう対応していますか」「身体拘束をした場合の記録・見直しの仕組みはありますか」を聞いてみてください。答えがあいまいだったり、抽象的な言葉で返ってきたりする施設は、現場でも同じように「なんとなく」の対応になっている可能性があります。

実例2:「みんなで決めた」つもりが、本人だけ置いてけぼりだったケース

何が起きたか

入院先からの退院期限が迫る中、ご家族が話し合って施設への入所を決めました。「本人に説明してもどうせ混乱するだけだから」と、施設を見せることも、じっくり説明することもないまま、当日を迎えることに。入所後、本人は繰り返し「家に帰りたい」と口にし、食事を拒んだり、居室に閉じこもりがちになったりする様子が見られるようになりました。職員からは「ケアへの抵抗が強くなっている」という報告が増え、面会に行くたびに本人から「帰りたい」と言われるご家族も、次第に足が遠のいてしまいました。

なぜこのミスマッチが起きたのか

認知症があると「本人に決めさせても混乱するだけ」と考えて、家族だけで決めてしまうケースは少なくありません。ですが、認知機能が低下していても、本人にとって「知らないうちに生活が変わってしまう」ことのショックは変わりません。むしろ十分な説明や心の準備がないまま環境が変わることで、混乱や不安がより強く出てしまうことがあります。

そこから学べること

認知症があっても、本人を意思決定のプロセスから完全に外さないことが大切です。事前に施設の写真や動画を見せる、可能であれば見学に一緒に行く、簡単な言葉で理由を繰り返し伝える、居室の飾り付けなど小さな選択だけでも本人に委ねる、といった工夫が有効です。厚労省が示す「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」でも、本人の意思をできる限り尊重するプロセスの大切さが強調されています。入所後も、一度説明して終わりではなく、繰り返し伝え続ける姿勢が求められます。

実例3:「老健=通過点」のはずが、気づけば長期滞在になっていたケース

何が起きたか

費用や空き状況の面から老人保健施設(老健)を選んだご家族。「3か月ごとに入退所の判定がある」という説明は受けていたものの、それが実際どういう意味を持つのかまでは深く理解しないまま入所しました。数か月が経ち、在宅での介護体制が整わないまま判定の時期を迎えるたびに、施設側から「次の行き先」の相談を持ちかけられるようになり、結果として複数の施設を転々とすることになったり、行き先が定まらないまま不安定な状態が続いたりすることになりました。

なぜこのミスマッチが起きたのか

老健は法律上、在宅復帰を目指すためのリハビリ施設として位置づけられていて、特養のような「終の棲家」とは制度上の役割が異なります。この違いを入所前に理解していないと、費用や空き状況だけで施設を選んでしまい、結果として「在宅復帰」という前提とご家族の実際の状況(介護者の負担、住環境など)がかみ合わないまま、施設探しを繰り返すことになりがちです。

そこから学べること

老健を選ぶ際は、契約前に「在宅復帰が難しいとわかった場合、次はどうなるのか」「更新の判定基準は何か」を具体的に確認しておくことが重要です。そして何より、「本当に在宅復帰を目指すのか」「今の住環境や介護者の状況でそれが現実的か」を、施設探しを始める前にご家族の中で一度整理しておくことをおすすめします。

3つに共通するチェックポイント

3つのケースに共通していたのは、「言葉」と「実際の運用」の間にギャップがあった、ということです。契約前に、次のことを具体的に確認してみてください。

  • 「個別対応」「専門スタッフ常駐」といった言葉は、スタッフの勤続年数や具体的な対応方法まで踏み込んで聞く
  • 本人が施設を見たり、説明を受けたりする機会を、できる範囲で必ず作る
  • 老健など「通過点」としての施設は、在宅復帰が難しくなった場合の次の行き先まで含めて事前に確認する
  • 「うちの場合、本当に目指したいゴールは何か」を、施設を探し始める前に家族の中で一度言葉にしておく
  • 契約前の説明で答えがあいまいな項目があれば、現場でも同じようにあいまいに運用されている可能性がある、と考える

施設選びは、パンフレットの言葉を鵜呑みにすることでも、逆に疑いすぎることでもなく、「具体的に聞く」ことで防げるミスマッチがほとんどです。次は、実際に見学に行くときに何を聞けばいいのか、質問リストの形でもう少し詳しくまとめていきます。

🫶 ゆるっとケア日和|腸活×介護×FPのヒント帳 今日も、あなたと大切な人の”ごきげんな日”が少し増えますように。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。 介護サービスの利用や制度の適用については、 お住まいの自治体や担当の専門職へご相談ください。

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